金型の「入れ子」とは?メリットや注意点まで徹底解説
射出成形・金型

射出成形金型の設計・製作において、「入れ子」は欠かせない基本構造のひとつです。ひと口に入れ子といっても、アンダーカット形状を回避する入れ子や機能面で使用する入れ子、コストダウンで使用する入れ子など、用途や種類はさまざまです。
それぞれの入れ子には適した用途とメリットがあり、どの入れ子をどこに採用するかの判断が、金型の品質・コスト・生産性を大きく左右します。
本記事では、入れ子の基本的な定義から各種類の特徴・メリット・活用事例について詳しく解説します。
目次
入れ子とは?基本的な定義と役割

「入れ子」とは、金型の本体(母型)に組み込む交換可能な部品です。
金型全体を一つの鉄の塊から作るのではなく、製品形状を担う部分だけを独立した部品として切り出したものが入れ子です。摩耗しやすい部分や、製品のデザイン変更が多い部分を入れ子として設計することで、金型全体を作り直さずに対応できるようになります。
金型の世界では「入子(いれこ)」と表記されることもあり、英語では「insert(インサート)」と呼ばれます。国際的な金型図面や仕様書でもこの表記が一般的です。入れ子はホルダー(母型)の中に組み込まれ、製品形状を直接形成する役割を担います。
入れ子を活用することで、コスト削減や開発スピードの向上という効果が得られます。
また、入れ子型では部位ごとに最適な材質を選択できる点も大きな特徴です。
摩耗が激しい箇所にはSKD11などの高硬度材、冷却効率をよくしたい箇所には銅などの熱伝導率の高い材料、複雑形状で加工性を優先したい箇所にはNAK80、試作・小ロット用にはアルミ合金を選ぶなど、一体型金型では難しい材質の使い分けが可能になります。
アンダーカット形状を処理する入れ子
スライド入れ子
スライド入れ子とは、アンダーカット形状(型開き方向に抜けない形状)を成形するために使われる入れ子です。型開き動作に連動して横方向に自動でスライドし、アンダーカット部を成形した後に退避する機構を持ちます。
側面の穴・爪・引っ掛け形状など、多くの製品形状で採用されています。

詳しくは以下の記事もご覧ください。
>『アンダーカット』の基礎を学ぶ 金型から製品を離型する仕組みとは?
>スライドの種類、横スライド・傾斜スライドとは?金型のアンダーカットを解消する機構を学ぶ
置き駒
置き駒とは、アンダーカット形状を処理するために使われる入れ子の一種で、作業者が手作業でセット・取り外しを行うものです。スライド入れ子のように型開き動作に連動して自動で動く機構を持たないため、構造がシンプルで製作コストを抑えられます。

成形のたびに作業者が置き駒を手でセットし、成形後に取り出す工程が必要になるため、量産よりも試作・小ロットの用途に向いています。
量産移行時にはスライド入れ子への切り替えを検討することが一般的です。
スライド入れ子と置き駒の特徴比較
どちらもアンダーカット形状を処理するという役割は同じですが、動作方式と適した用途が異なります。
| スライド入れ子 | 置き駒 | |
| 動作方式 | 型開きに連動して自動退避 | 手作業でセット・取り外し |
| 用途 | 量産 | 試作・小ロット |
| 金型コスト | 高め | 低め |
| 成形サイクル | 速い | 遅い(手作業) |
機能面で使用する入れ子
交換式入れ子
交換式入れ子とは、摩耗・損傷が起きやすい箇所をあらかじめ独立した入れ子として設計し、交換を前提とした構造にしたものです。ゲート周辺やエジェクタピン周辺など、負荷が集中する部位に採用されることが多いです。
特徴
・スペアの入れ子を事前に製作しておくことで、緊急時の復旧時間を最小限に抑えられる
・消耗しやすい箇所だけ高硬度材を使い、他の箇所はコストを抑えた材質を選べるため、金型費用を抑えられる
ベント入れ子(ガスベント)・短冊入れ子
ベント入れ子とは、ガス抜き(ベント)を目的として設計された入れ子の総称です。
成形時には、溶融した樹脂や樹脂の中の添加剤などからガスが発生します。このガスが金型内に滞留すると、成形品の一部が焦げたように変色する「ガス焼け」や、樹脂が最後まで充填されない「ショートショット」、樹脂同士が合流する部分にできる線状の跡「ウェルドライン」といった成形不良の原因になります。
ベント入れ子は、入れ子と母型のわずかな合わせ面をガスの排出経路として活用することで、こうした成形不良を防ぐ役割を担います。樹脂は通さず空気だけを逃がす精密なクリアランス管理が求められるため、加工精度と組み付け精度が品質を左右します。

その中でも、細長い形状をした「短冊入れ子」は、ガス抜きを目的として採用されることがあります。深リブや細溝の底部など、ドリルやルーターでガス抜き穴を設けることが困難な箇所に対して、効率的にガスを排出できるようになります。

実際に、ガス焼けが発生しやすい形状の製品では、短冊入れ子を活用して品質改善を図るケースも少なくありません。
特徴
・ガス焼け、ショートショット、ウェルドラインなどの成形不良を抑制できる
・入れ子単体での交換・メンテナンスが可能なため、保守性が高い
【関連記事】
>『ショートショット』とは?対策方法や実際の事例をご紹介
>射出成形における不具合『ウェルドライン』の発生原因と対策方法
>射出成形とは『ガス』との戦い!空気・ガスを金型から排出する方法を学ぶ
コストダウンで使用する入れ子
カセット型
カセット型とは、共通のホルダー(ベース)に対して、製品形状部分を大きな入れ子としてカセットのように差し替えて使う方式です。

品種切り替えのたびに金型全体を入れ替えるのではなく、異なる品種の製品を一つの金型ベースで成形することを目的としており、入れ子だけを交換することで段取り時間とコストを削減できます。
アルミ合金や低硬度の鋼材など、比較的加工しやすい素材で入れ子を製作することで、試作・小ロット・短納期対応にも柔軟に活用できます。
【関連記事】
>簡易金型とは?高精度なプラスチック製品金型でコスト削減と納期短縮を実現
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仕様違いの入れ子
仕様違いの入れ子とは、同一製品の一部形状だけを変更するために使う入れ子です。
カセット型が品種ごとに大きな入れ子を丸ごと切り替えることを目的とするのに対し、仕様違いの入れ子はロゴ・リブ・穴位置など変更が必要な箇所だけを入れ子化します。
金型全体の構造はそのままに、該当箇所の入れ子だけを新規製作することで対応できるため、製品バリエーションの展開を低コスト・短納期で実現できます。
共通の特徴
どちらも金型全体を作り直すことなく入れ子の交換だけで対応できるため、コストと納期の両面で大きなメリットをもたらします。
2つの違い
| カセット型 | 仕様違いの入れ子 | |
| 対象 | 異なる品種への切り替え | 同一製品の一部形状変更 |
| 差し替える範囲 | 製品形状全体 | 変更箇所のみ |
| 主な用途 | 多品種対応・試作 | バリエーション展開・仕様変更 |
その他の入れ子
刻印の入れ子
食品容器や医療機器、自動車部品では製造年月日やロット刻印が必須です。刻印部分を入れ子として設計しておくことで、金型全体を作り直すことなく簡単に刻印内容を差し替えられます。
OEM商品などでも凹凸のロゴ部分を入れ子化すれば、依頼元のロゴに入れ替えるだけで同じ金型を使用できます。
特徴
・製造年月日・ロット番号・品番などの刻印変更に素早く対応できる
・刻印入れ子のみの製作で済むため、変更コストを最小限に抑えられる
入れ子の注意点
①精度の確保
入れ子は母型と完全にフィットする必要があります。
わずかな隙間でも樹脂が漏れ出し「バリ」と呼ばれる余肉が発生し、外観不良や組み立て不良の原因になります。

特に外観部品や寸法精度が厳しい部品では、入れ子の加工精度と嵌合精度を両立させることが不可欠です。
【関連記事】
>『バリ』とは?対策方法や実際の事例をご紹介
②割り線の発生

入れ子を使う以上、必ずどこかに分割面(割り線)が生じます。
この割り線が製品の外観面や寸法基準面に出てしまうと、製品品質に直接影響するため、分割位置の計画は設計初期段階から慎重に行う必要があります。
割り線が問題になる主なケースは、以下の通りです。
・意匠面(外から見える面)に割り線が出て、外観品質を損なう
・寸法基準面に割り線が出て、製品の組み付け精度が低下する
・割り線部分にバリが発生し、後工程でのバリ取り工数が増える
・割り線のわずかな段差が製品の摺動部・シール面に悪影響を与える
対策としては、まず製品図面の段階で割り線を出しても問題ない面(非意匠面・非基準面)を確認し、そこに分割面が来るように入れ子の分割位置を計画します。
製品の角やエッジ部分に割り線を逃がすと、視覚的に目立ちにくくなる場合が多いです。
まとめ
プラスチック製品開発において、入れ子は単なる金型の工夫ではなく、以下のような経営的なメリットをもたらす重要な仕組みです。
・コスト削減
・加工性の改善
・材質選定の自由度
・成形不良防止
・製品バリエーションへの対応
ただし精度不足や割り線の発生といった課題もあるため、設計段階から十分に配慮する必要があります。
これから製品開発を検討する企業担当者にとって、入れ子は投資リスクを抑え、製品展開の自由度を高める有効な選択肢です。
金型メーカーとの協議の際には、「入れ子化が可能か」「割り線をどう処理するか」といった観点をぜひ意識してみてください。
入れ子・金型設計のご相談は㈱関東製作所へ
入れ子構造の採用可否や設計上の判断は、製品形状・成形条件・生産数量によって大きく異なります。
射出の金型製作と成形を手がける㈱関東製作所では、設計段階からのご相談に対応しています。
長年の製造実績をもとに、金型メーカーと成形メーカーの両者の目線からコストと品質の両立に向けた最適な提案をいたします。
「どこを入れ子にすべきか」「カセット型で対応できるか」など、具体的な疑問や課題をお持ちの方は、ぜひ関東製作所へお気軽にご相談ください。

