2Dイラストから3Dデータ化にあたり用意すべき情報とは|樹脂製品の製造工程を知る
プラスチック
日ごろから多くのお客様より製品開発のご相談を頂く弊社ですが、中には、
・現物しかないが同じ物を作りたい
・モノづくりを行うのが初めてのため持っているのはポンチ絵のみ
など様々な理由により図面をお持ちでないお客様が多くいらっしゃいます。
今回は、図面の無い状態からどのようにモノづくりを行うのか、『3Dデータ作成』と『3Dプリンターでの造形』を、関東製作所非公式キャラクター『ゆきむぎ』の製品化プロジェクトを通して2本立てでご紹介いたします。
本記事では、前半の『3Dデータ作成』に焦点を当てて解説いたしますが、後半の『3Dプリンターでの造形』に関しては、以下のリンク先からもご覧いただけます。
> 3Dプリンターで試作品造形の実例
目次
モノづくり業界での3Dデータの重要性
近年のモノづくり業界では、3Dデータが非常に重要な役割を果たしています。3Dデータがあることでのメリットは下記の通りです。
メリットその①【開発段階】
平面の紙図面から3Dデータにすることで、デザインを視覚的に表現でき、サプライヤーとの共通認識が深まります。また、設計の変更なども3Dデータ上で行え、2D図面と比較して柔軟で容易な変更が可能です。
解析やシミュレーションを行うにも3Dデータが必要になります。
メリットその②【製造段階】
NC加工機や3Dプリンターなどで製造する際にも3Dデータは必須です。昔のように職人の手で機械を操るのではなく、コンピュータ制御になるため、製造段階でも3Dデータが必須になるケースが多いでしょう。
このように現代の製造現場では3Dデータをもとに生産が行われています。
そんな中で今回は、イラストしかない状態から、3Dデータを作成するところまでのプロジェクトストーリーをご紹介いたします。
3Dデータ化したい製品のもとになる素材
今回のプロジェクトのメインとなる『ゆきむぎ』とは、福岡工場で働いている2匹のヤギをモデルにした関東製作所の非公式キャラクターです。
プロジェクト初期に手元にあったのは、こちらの2Dイラストのみでした。
3Dデータ作成の依頼時に必要な情報とは
今回のように、2Dの画像のみ手元にある場合は、3Dデータを作成するために最低限、以下に説明する「三面図」の情報が必要となります。
三面図とは
立体物の3Dデータを作る際には、基本的に「三面図」と呼ばれる、寸法情報などを入れた対象物を3つの方向から見た2D図を作成します。正面からの図だけでは製品の「高さ」や「深さ」、「側面」や「裏面」の正確な仕様が分からないため、立体物は作れません。
そのため、3Dデータの作成には、どうしても三面図が必要となります。
※簡単な形状、例えば単純な筒形状や平板などは三面図が不要な場合もありますが、逆に複雑な形状は三面以上の図面を作る必要があります。
2Dイラストから3Dデータ化までの具体的なフロー
フロー① たたき台としての3Dデータの作成
今回、手元にあったのは正面のイラストのみだったため、参考として、似たような体型の横図と背面図を送付しました。
その後、たたき台として送られてきた画像がこちらです。
やはり自分の頭の中のイメージを言葉や参考写真だけで伝えるのは難しく、お腹一つとっても、自分の理想である丸みと設計者の想像する丸みは全く違います。
2Dデータ送付の時点で寸法を決めておらず、特に指示も出さなかったため、設計者にも自分の意図が通じなかったようです。
下記に、特にイメージと相違があった点と、それに対する具体的な修正指示をまとめました。
指摘箇所 | たたき台データ | 修正点 |
---|---|---|
体 | ・股下が短め、お腹がすっきりとしている | ・胴の長さに対して足の長さを倍にしてほしい。 ・お腹や腕、足は全体的に丸みを出して角を少なくし、可愛らしい印象を持たせたい。 |
顔 | ・凹凸が少なく、鼻ものっぺりとしている。 ・耳は薄く、主張が少ない。 ・笑っている目 |
・鼻から口元にかけて丸みがあり、正面に突き出してほしい。 ・耳は、厚みを2~3㎜足してほしい。 ・データの作りやすさから笑っている目にしたが、あまり可愛さが伝わらないため、イラスト通りの開いている目に変更してほしい。 |
また、自分のイメージを伝える補足として、形状が近しい参考のイラスト画像をWeb上で探し、以下のように指示しました。
たたき台データと自分のイメージの相違点を伝え、伝わりづらい点は電話で直接話し、修正を依頼しました。
フロー② 丸みを持たせ、よりキャラクターらしい3Dデータに補正
全体的な丸みや細かな部分の修正を依頼し、2回目に送られてきたのがこちらです。参考画像をかなり意識して、設計していただきました。
1回目に比べ、丸みを帯びたものになりましたが、やはり参考画像やニュアンスを伝えるだけでは理想通りのデータを作ることは難しいです。具体的な数値の重要さを実感しました。
2回目は、下記を修正点として依頼しました。
指摘箇所 | 2回目データ | 修正点 |
---|---|---|
体 | ・お腹が出すぎてしまい、足が埋もれてしまっている。 ・服と手足の境目が分からない。 |
・お腹の膨らみは、今の1/2程度に抑えてほしい。 ・足の長さはそこまで変えず、付け根からふくらはぎの部分をはっきりと出してほしい。 ・赤いサロペットの中に白い長そでの服を着ているイメージのため、手足の蹄の色は茶色に修正してほしい。 |
顔 | ・顔の凹凸がまだ少なく、のっぺりとしている。 ・顔の大きさに対して耳や角が控えめな印象。 ・2匹の耳の形や鼻の色は同じ。 ・目に光が無い。 |
・顔の形は丸ではなく、楕円形で、目から口元にかけて正面に突き出るイメージで修正してほしい。 ・耳に関して、むぎ(左)は長さを倍にして、細長く先端がとんがっており、横に広がっているイメージ。ゆき(右)は、長さはそこまで変えずに先端に丸みがあるイメージ。耳に対して角を倍に設定し、主張させてほしい。 ・目には光を差し込んでほしい。 ・ゆき(右)の鼻の色は赤色に変更。 |
2回目のデータに対し、今回もこちらのイメージや修正点を、下記のイラストを参考として指示しました。
今回のように全体的に丸みのある形状は、すべての箇所にRを付ける必要があります。しかし、自分でもどのぐらいの角度が欲しいのか、数値で伝えることができず、「このぐらい」や「こんなかんじ」というあいまいな表現で伝えるしかありませんでした。
3Dデータ作成の詳しい過程は、下記よりご覧いただけます。
> 図面もない、現物もない環境下での3Dデータ作成方法
フロー③ 3Dデータの完成
前回の丸みを帯びたものからさらに打ち合わせを重ね、ついに最終案が送られてきました。
特に意識して修正してもらったのは、全体のバランスです。胴に対して手足の長さをバランスよく設定し、頭を大きめにすることでかわいらしさが出ました。
また、お腹の膨らみも、前回送った参考画像に寄せて控えめな膨らみになっています。
何度もすり合わせを行ったことにより、自分の理想通りの3Dデータが完成しました!
3Dデータ化に際し、苦労したポイント
- 曲線形状が多く複雑で、微妙なニュアンスを伝えるのが難しかった(数値化したデータがなく正面からのイラストだけだった為)
- 正面のイラストのみだったため、設計者の想像で作っていく部分が多かった
- 参考として送る三面図がWeb上に少ない
工業製品の3Dデータ化は、寸法と形が分かれば打ち合わせ無しで作成可能な場合がほとんどでしょう。しかし、今回のようなキャラクターは平面がほとんどなく、ほぼ曲面のみで構成されており寸法の記載もない為、デザインの良し悪しが個人の感覚に依存するケースが多いです。
次回はいよいよ、今回の3Dデータをもとに3Dプリンターで造形を行います。
> 3Dプリンターで試作品造形の実例|積層造形と光造形それぞれの特徴とは
まとめ
今回のようなケースは特殊で、実際の3Dデータ作成には『三面図』と『具体的な数値(寸法)』が必要になります。プロジェクトを円滑に進めるためにも、これらの情報は事前に用意しましょう。
弊社(株)関東製作所では、2D図面からの3Dデータ作成や、現物は手元にあるが図面は無いという場合でも、三次元測定機で測定できる形状であればリバースエンジニアリングが可能です。
3Dデータは、3Dプリンターでの造形のみならず、射出成形や真空注型、切削加工など、ほとんどのプラスチック成形工法に必要になります。弊社は、設計から3Dデータの作成、製造まで一貫して対応しておりますので、プラスチック製品開発においてお困り事がありましたらお気軽にご相談ください。
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