プラスチック製品の美しい形状と機能性を設計【射出成形試作品プロジェクト#01】
射出成形
株式会社関東製作所はこの度、射出成形の試作品として自社のロゴ入りスマホスタンドを製作しました。このプロジェクトにおいて、プラスチック製品が企画・設計から、実際に射出金型で成形されるまでの工程を、余すことなく皆様にお届けしたいと考えております。
プラスチック製品の開発をご検討のメーカー様、また製造の工程で課題や難解な問題に行き詰っている開発者の方。ぜひお楽しみいただき、御社の製品開発のヒントになれば幸いです。
【射出成形試作品プロジェクト】第一回目となる本記事では、プラスチック製品の「製品設計・デザイン」についてご紹介いたします。
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目次
樹脂素材の選定 バイオプラスチックと汎用樹脂ABS
バイオプラスチックには「RiceResin®」を採用しています。また、素材を比較するため、汎用樹脂のABSでも製作いたしました。
バイオプラスチックと聞くと、海や土に分解されて自然に還るイメージのある方もいると思いますが、後述で詳しく説明しますが、バイオプラスチックにも様々な種類があります。分解されない耐久性に問題がないことを、この製品を使っていただくことで感じていただきたいと考えております。
今回採用した「RiceResin®」は、文字通り樹脂成分のうち約半分が非過食のお米でできています。非過食米は最大で70%まで含有が可能です。
非過食米とは、食用や流通には適さない、古くなった米のこと。米菓メーカーから出る砕砕米(はさいまい)や、変色してしまって売り物にならない、家畜の飼料にもならない品質のものを指します。
[RiceResin®の基本を紹介した記事]
> 日本発のお米を使ったバイオマスプラスチック! 環境に優しい「ライスレジン®」をご紹介
バイオプラスチックの種類をおさらい
巷で話題となっているバイオプラスチックには、二種類あります。
生分解性プラスチック | 自然に還る生分解性プラスチック |
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バイオマスプラスチック | 分解されないが、米・竹・ビール酵母など、自然界にあるものを原料として抽出する点において環境に配慮したプラスチック |
今回のプロジェクトで使用したバイオプラスチックは後者の方になります。
当社のお客様は、自動車、建築資材、電子機器などのメーカーの方が多くいらっしゃいます。
数十年で分解されては困る製品も多く手がけていることから、今回は自然界にあるものを原料とした『バイオマスプラスチック』を採用いたしました。
[バイオプラスチックの基本を紹介した記事]
> バイオプラスチックを知る 製造現場から考える環境問題を意識した次世代プラスチック素材とは
製品のデザイン形状の意図とは
続いて、完成した製品デザインをご紹介します。
試作品としてスマホスタンドとした理由は、デスク上で長く使ってもらえるためです。こだわったのは形状の美しさ。この曲線をご覧ください。
こちらは後ろに行くにつれて敢えて除変させ、R(半径)を大きくしました。その方が製品として美しいためです。
下記の平面的なスマホスタンドの形状と比べてみてください。
感覚的にも、先にお見せしたR形状を大きく再現したデザインの方が、製品としての美しさ・魅力が際立っていますね。
金型コスト削減を加味した「RiceResin®」ロゴの配置
このロゴ加工に関しては、彫刻を専門で行う協力メーカーに依頼し加工しています。
細かく繊細な形状は平面の方が加工しやすいので、勾配が少ないところ、すなわちスマホスタンドの天面を選び、もともとは多少斜面だったところを少し平面に削り込み、配置しました。
傾斜の大きなところに彫刻をすると複雑な加工が必要となり費用がかさんでしまうので、これはコストダウンも加味した設計となっています。
ロゴの部分を金型上では『入れ駒』で構成
このロゴ部分は他のロゴと差し替えが可能なように、金型上では『入れ駒』として別パーツで構成しています。
もちろん入れ駒と周りの形状には、段差が「0」になるよう精度よく加工しています。段差があると、成形した際、製品にその段差が形状として出てしまうので、寸分の段差もないように設計をしなければいけません。
このように入れ駒仕様を取り入れることで、一つの金型での成形だったとしても、部分的に違うデザインや形状を多展開できる製品企画が可能ですよね。
複雑で細かい形状を再現できる『射出成形』の魅力
関東製作所の名前の部分は「RiceResin®」ロゴとは違い、曲面が急な位置に細かい凸文字を再現しなければなりません。
更にロゴは入れ駒にする予定もなかったので、金型の本体に直接加工しなければならないため、自社の切削機械に乗せて加工しました。
またこれほど細かく複雑な形状だとしても、プラスチック製品にした時にきれいに再現出来てしまうのが射出成形ならではのメリットですね。
プロダクト設計のポイント① 細部まで『ユーザーの使い心地』に配慮
テーブルに接する裏面は、角に0.5Rかけて、エッジではなくしています。
持った時の感触が優しくなるように、ユーザーの使い心地のために細かいところにまで気を配りました。
プロダクト設計のポイント② スマホを差し込む溝にも一工夫を
スマホケース・カバーをつけたままでも入れられるように、幅を広めに設計しました。さらにスタンドにスマホを置いた際、倒れず見やすいよう画面が少し斜めになるように工夫してあります。
この溝にも一定のRをかけることで、少しでもスマホに傷等が付かないよう配慮しています。
提案段階のスマホデザイン案をご紹介
デザインは当初、クジラやラッコといった可愛いファンシーなものでした。キャラクターで遊び心がある方が喜ばれるのではないかと、デザイナーが考えたためです。
ラッコは貝をお腹に乗せて割って食べているところをスマホスタンドのデザインしました。また、トゲトゲしたおしゃれなスマホスタンドもデザインしました。
最終的に、製造業界専門の展示会に出す予定もあり、バイオプラスチックの素材をより素直に見せられるよう、複雑形状にはせずシンプルなものに決定しました。一般樹脂(ABS)とバイオプラスチックを比較しながら皆様にお見せしたい意図もあり、シンプルな方がそれらの違いが伝わりやすいと考えたのです。
「樹脂で射出でやるのであれば、曲線が綺麗なものがいいのでは」と社内で意見がまとまり、最終的にこちらの形状になりました。
プロダクトとしての美しさと樹脂素材の特長を考慮した設計
これは樹脂に限らずですが、物質は熱すると膨張し、冷やすと収縮します。
射出成形では、熱して溶かした樹脂を金型に注入し、冷やして製品を成形します。よって、樹脂も冷えて固まった時、収縮して“反り”などの不良が発生する可能性があります。
特に直線的な広い面や、鋭角な角などがあると“反ってしまう”可能性が高いですが、R形状面が広いと“反りにくい”という特徴があります。
また、丸みをつけたほうが樹脂としての合成強度が高いので、丸みの強調されたデザインに仕上げました。
このように、製品全体を積極的に曲線にすることは、成形がしやすい意味でも正解であり、理にかなった設計なのです。
樹脂の『流動性』を考慮した製品設計を!
『流動性』とは、樹脂が金型内で「流れやすいかどうか」を表現する言葉です。流動性が良いと、小さく複雑な形状でも樹脂が流れ込みやすく、製品になった時の再現性が高まりますよね。
樹脂素材には様々な種類があり、流動性はその材料によって大きく変わります。
このスマホスタンドの板厚に関しては、設計段階で「ABS相当で2.5㎜の板厚」に設定しています。
バイオプラスチックは、汎用樹脂相当の流動性がありますので、ABSを基準にしておけば、PPやPEなども対応ができると考えて設計しました。
(ABSよりもPP・PEの方が流動性が良い)
↑流動解析ソフトにて、樹脂の流れ込む具合をシミュレーションしているイメージ
樹脂の特徴に関し一般的に定義されているものを含め、関東製作所の設計者は経験から最適な板厚を弾き出しています。
製品設計をする際には、どの素材でどう成形するのか、何よりもまず素材を決めることが重要です。同じ金型で成形したプラスチック製品であっても、樹脂素材の違いだけで『反り』のひどい製品になったり、樹脂の流れが悪いことで、細かい形状が再現できないなど結果は大きく違ってしまうのです。
(もちろん流動性だけではなく、物性や収縮率も材料によって異なります)
製品設計をするうえで最も重要なことは、素材の流動性の良し悪しや収縮率の違いを十分に加味すること!それが出来たうえで次の工程、金型設計に入ります。
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まとめ
このように関東製作所グループの各拠点には、プラスチック成形に関し経験豊富な設計者が常駐しています。
弊社では、「製品を作りたい、開発したい」というお客様に対し、「この図面では、製品化は無理です」と一つ返事で返してしまうことは決してありません。現状手元にある図面から、どうしたら製品として生み出すことができるかをお客様と一緒になって考え、適切にアドバイスいたします。
2D図面しかない場合にはそれを基に3Dモデルに起こすことができます。また図面が無かったとしても、製品設計の代行を承ります。
「サンプルの製品現物はあるが、図面がない」といった場合にも、ご相談ください。その現物をスキャンニングし、データ化して3DのCADデータとして生成することが可能です。
ぜひ一緒に、お客様のアイデアをカタチにさせてください。各拠点にいる優秀な設計者を筆頭に、社員一同お待ちしております。
[射出成形ソリューションサイト]
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