営業・技術・製造が連携するマーケティング体制の作り方【関東製作所式 製造業マーケティング実践講座#4】
マーケティング

「マーケティングは専門の担当者に任せておけばいい」
そう考えている製造業の経営者は少なくありません。しかし、製造業のマーケティングを成功させるには、営業・技術・製造の各部門が連携してこそ成果が生まれます。一つの部門だけでは「技術の専門性」「顧客の課題理解」「効果的な情報発信」の3つを同時に実現することはできないからです。
本記事では、部門間連携によるマーケティング体制の作り方を、関東製作所の実例とともに解説します。
目次
なぜ製造業では部門間連携が重要なのか
多くの企業では、マーケティングを「広報部門の仕事」「専門担当者の仕事」と考えがちです。しかし、マーケティングの最大の役割は「売上を創出する仕組み」を構築することにあります。
そのためには各部門との連携が不可欠です。マーケティング単体での活動では十分な効果を発揮できず、各部門を繋ぐ「ハブ(橋渡し役)」としての役割も担う必要があります。
特に製造業においては顕著で、この分業体制では十分な成果を上げることができません。
「分業」では成果が出ない理由
製造業のマーケティングが分業では成果が出ない理由は、製造業特有の複雑性にあります。

このように、どの部門も単独では限界があります。
マーケティングは、営業やカスタマーサポートとの連携が重要視されることが多いですが、それだけでは不十分です。製造業におけるマーケティングを成功させるためには、製造部門も含め、各部門の強みを組み合わせる必要があります。
製造業マーケティングに必要な3つの視点
製造業のマーケティングで成果を出すには、技術の専門性、顧客の課題理解、効果的な情報発信の3つの視点が必要です。

これら3つの視点が重なり合うことで、初めて「専門性が高く、顧客に響き、継続的に発信できる」コンテンツが生まれます。
よくあるケースですが、自社の売りたい技術や製品をPRするだけでは、売上は伸びにくいです。顧客の求めることや市場ニーズを把握したうえで、それに合わせたPRを行うことが重要です。
各部門がマーケティングに関わるメリット
「マーケティングに協力するメリットがわからない」という声を、営業や技術の現場から聞くことがあります。しかし、実は各部門にとって、マーケティングへの関与は大きなメリットをもたらします。
営業部門のメリット
営業部門がマーケティングに協力することで、以下のようなメリットがあります。
新規リードの増加
Webサイトやコンテンツを通じて、自社を知らなかった潜在顧客からの問い合わせが増えます。営業が新規開拓に費やす時間を削減でき、より質の高い商談に集中できます。
既存顧客との関係強化
定期的に有益な技術情報を発信することで、既存顧客に対しても価値のある情報を提供できます。「この会社は頼りになる」という信頼関係の構築につながります。
関東製作所では、Webサイト経由の問い合わせが年間500件以上に増加したことで、営業担当者の新規開拓負担が大幅に軽減されました。
製造業の営業は「技術営業」としての役割を担うことも多く、既存顧客の案件対応に多くのリソースを割いています。そのため、市場ニーズを調査する時間は限られており、実施できたとしても既存顧客からのヒアリング程度で、情報に偏りが生じやすいです。

さらに、当社では定期的に製造現場や技術解説の動画をYouTubeで発信しているため、営業担当者が顧客を訪問した際に「YouTubeを見ています」と言われることも多くなりました。
動画コンテンツが既存顧客との関係維持に自然な形で貢献するだけでなく、展示会でも声をかけられることがあり、会話のきっかけとしても活用されています。
技術・製造部門のメリット
技術者がマーケティングに関わることは、一見すると本業から離れた作業に思えるかもしれません。しかし、実は技術者自身にとっても大きなメリットがあります。
自社の強みを正しく理解してもらえる
技術者自身が情報発信に関わることで、自社の技術的な強みや差別化ポイントを正確に伝えられます。
製造部門が顧客と関わる時間は限られており、市場ニーズまで把握するのは難しいです。その結果、顧客ニーズとのズレが生じることがあります。
例えば、製造業の一般的な指標であるQCD(品質、コスト、納期)で考えると、製造現場としては品質に絶対的な自信があり、そこを徹底的に追及していたとしても、市場が「安く、早く」を求めている場合には、ニーズとの乖離が発生してしまいます。
誤解や認識のズレが減り、適切な案件が舞い込むようになります。
新人教育の資料として活用できる
製造現場の技術や工程をコンテンツ化しておくことで、新人が入社した際の教育資料としても活用できます。
製造部門には、口下手で職人気質の人材も多く、言語化が得意でないケースも少なくありません。現代の若手育成においては、「背中を見て覚える」だけでは不十分です。
言語化された資料が残ることは、教える側の負担を減らしながら、現場の知識を組織の資産として蓄積できます。
技術インタビューがSEOコンテンツの専門性を高める
部門間連携の具体的な方法として、特に効果的なのが「技術インタビュー」です。
これは、マーケティング担当者が定期的に技術者にインタビューを行い、その内容をコンテンツ化する取り組みです。
なぜ技術者の声が重要なのか
Googleをはじめとする検索エンジンは、近年「E-E-A-T」という評価基準を重視しています。これは、Experience(経験)、Expertise(専門性)、Authoritativeness(権威性)、Trustworthiness(信頼性)の頭文字です。

実務者の生の声が信頼性を生む
技術者が実際に経験した事例や、現場での工夫を語ることで、コンテンツに「経験」と「専門性」が加わります。これは、検索エンジンからの評価だけでなく、読者である顧客からの信頼獲得にもつながります。
専門用語の正確な使用
技術者が直接関わることで、専門用語を正確に使用しつつ、その意味や背景を丁寧に解説できます。これが、検索エンジンにとっても読者にとっても価値の高いコンテンツになります。
独自の視点や知見
技術者が長年の経験から得た独自の視点や知見は、他社には真似できない貴重なコンテンツです。これが差別化につながります。
近年の生成AIの進化により、コンテンツの量産が進んでおります。これは自社にとっても恩恵がありますが、同時に他社も同様にコンテンツを制作できる環境になっているという事でもあります。
そのような中で差別化を図るためには、自社独自の技術や知見を盛り込んだ、AIだけでは再現できない価値のあるコンテンツを発信することが重要です。
コンテンツ化の効果
技術インタビューで得た情報は、技術コンテンツやホワイトペーパー、事例紹介、Q&Aコンテンツなど、さまざまな形でコンテンツ化できます。

- ホワイトペーパー
- お客様が「知識を得るため」にダウンロードする資料のことを指す。
- 製品紹介のようにすぐ売ることを目的としたものではなく、後で営業活動に繋げるための接点づくりとして活用される。
製造業では、技術情報や課題解決のノウハウをまとめた資料などが多くみられ、ブログよりも専門性が高く、見込み顧客の獲得や営業資料として活用される。
【ホワイトペーパー参考】
https://injection-lab.com/download/
関東製作所では、技術インタビューから月に2〜3本の記事を作成しています。これらの記事は、検索エンジンからの流入だけでなく、営業資料としても活用されています。
関東製作所が実践する2つのコンテンツ制作方法
関東製作所では、技術者の知見をコンテンツ化する方法として、2つのパターンを実施しています。
パターン①技術者自身がコンテンツを執筆
技術者が自分で記事を執筆し、マーケティング担当者が校正や編集を行うパターンです。
関東製作所では、月に1回、各事業部ごとにコンテンツに関する会議の時間を設けています。
参加者は各事業部の部長に相談の上で決定しますが、熟練者と新人の2名体制にすることを意識しています。
この体制には明確な狙いがあります。
基本的に執筆するのは新人で、自身の勉強や復習も兼ねて記事を執筆します。出来上がった記事は熟練者が内容を確認し、技術的な正確性を担保します。
ただし、実際に対応した案件の実体験をベースにした事例紹介などは、熟練者本人が執筆した方が、細かいニュアンスや現場の工夫が正確に伝わります。
この方法により、新人の成長機会を作りつつ、技術的な正確性も担保できる仕組みになっています。
<メリット・デメリット>
| メリット | ・技術的な正確性が非常に高い ・細かいニュアンスや独自の工夫が伝わる ・マーケ担当者のインタビュー時間が不要 |
| デメリット | ・技術者の工数(執筆時間)が必要 ・専門用語が多くなりがち(顧客視点が欠けやすい) ・SEOを意識した構成にならない場合がある |
パターン②マーケティング担当が執筆
技術者にインタビューを行い、その内容を基にマーケティング担当者が記事を執筆するパターンです。
事前にSEOで上位を狙いたいキーワードを選定し、コンテンツのたたき台(大見出しや導入部分など)を作成しておきます。インタビュー時は、このたたき台を基に各項目について質問していきます。
インタビュー内容を基に、マーケ担当者が顧客視点で記事を執筆し、専門用語を適切に翻訳します。最後に技術者が内容を確認して、技術的な正確性を担保します。
<メリット・デメリット>
| メリット | ・技術者の負担が少ない(話すだけでよい) ・SEO対策を意識した構成にできる |
| デメリット | ・インタビュー+執筆で時間がかかる ・マーケ担当者に一定の技術理解が必要 |
専門用語の翻訳については、下記をご参考ください。
>「良い製品なのに売れない…」その原因は”伝え方”にあった【関東製作所式 製造業マーケティング実践講座#2】
2つのパターンの使い分け

関東製作所では、2つのパターンを併用しています。
技術者にコンテンツ執筆を依頼しながら、マーケティング担当者もインタビューの時間を設けてコンテンツを執筆しています。この方法により、毎月2~3本のコンテンツを公開しています。
「パターン①技術者自身がコンテンツを執筆」が向いているケース
・技術的な深い内容を正確に伝えたい記事
・技術者が執筆に意欲的
・業界内での専門性アピールを重視
「パターン②マーケティング担当が執筆」が向いているケース
・技術者が多忙で執筆時間を確保できない
・マーケ担当者に一定の技術理解がある
マーケティング担当者が窓口になる体制づくり
部門間連携を円滑に進めるには、マーケティング担当者が「窓口」として機能することが重要です。
コンテンツ制作だけでなく、会社全体の顧客対応においても、マーケティング担当者が中心となる体制を作ることで、営業の負担を軽減し、効率的な顧客対応が可能になります。
Web問い合わせの窓口を担当
関東製作所では、Webからの問い合わせは、まずマーケティング担当者が窓口となって対応しています。
基本的な流れ

①マーケティング担当が一次対応
見積依頼の場合は、数量や材質、データの送付依頼など、基本的な情報収集をマーケティング担当が行います。
②情報が揃った段階で営業へ引き継ぎ
必要な情報が揃った時点で、適切な営業担当へ引き継ぎます。
この体制のメリット
・問い合わせ数が増えても効率的に対応できる
・営業担当は情報が整理された状態で案件を受け取れる
・営業の負担が軽減され、商談に集中できる
問い合わせの件数が増えてくると、この方法が非常に効率的です。営業担当者は、必要な情報が揃った段階から関わるため、無駄なやりとりが減り、スムーズに商談に入れます。
大手企業などでは、初期対応の窓口をインサイドセールスの部門が担うケースが一般的です。その場合、マーケティング、インサイドセールス、営業の間での密な情報連携が欠かせません。
【セールスにおける主な役割】
・インサイドセールス:興味を持った見込み顧客と接点を持ち、情報を整理して商談化につなげる役割
・フィールドセールス:具体的な提案を行い、商談から受注までを担う役割
・カスタマーサクセス:受注後の支援や継続取引、取引拡大を担う役割
一方で多くの中小企業では、これらすべてを営業担当1人が担うケースも少なくありません。
弊社の場合、マーケティング部門がインサイドセールスの役割も担い、営業がフィールドセールスとカスタマーサクセスを担当しています。
打ち合わせの初期対応
Web打ち合わせなどで会社紹介を行う際も、マーケティング担当が対応します。
会社について知りたい段階
お客様がまだ具体的な案件を持っておらず、「まずは会社について知りたい」という段階であれば、マーケティング担当のみが参加して、下記のようなことを説明します。
・会社の概要や強み
・対応可能な技術や製品
・過去の事例紹介
具体的な案件がある場合
具体的な案件がある場合、初期の打ち合わせにはマーケティング担当と営業担当の両方が参加します。
<それぞれの役割>
・マーケティング担当:会社案内、営業が使用する専門用語の翻訳
・営業担当:技術的な話や質問への回答
製造業では深い技術知識を持つ営業担当が多く、打ち合わせで専門用語を無意識に使ってしまうことがあります。
製造業の現場では当たり前の言葉でも、顧客には伝わらない場合があるため、専門用語が出た際は必要に応じてマーケティング担当がわかりやすい言葉に”翻訳”して顧客に伝えます。
顧客目線での「伝え方」については、関東製作所式 製造業マーケティング実践講座#2で詳しく解説していますのであわせてご覧ください。

この役割分担により、顧客のニーズに応じた柔軟な対応が可能になります。また、マーケティング担当が営業担当に同行することで、各事業についての理解を深めることもできます。
ここで得た知識はマーケティング担当のみで対応する打ち合わせでも活用できるため、同行には学びの意味も兼ねています。
マーケティング担当の知識が鍵
ただし、この体制は少々特殊です。
関東製作所のマーケティング担当は、各事業部の知識をある程度備えています。そのため、確度の低いお客様や、内容があまり固まっていないお客様の対応は、マーケティング担当のみで対応できてしまいます。
関東製作所の事業体制
関東製作所は、「射出の金型製作・成形」「ブローの金型製作」「自動機の製作」の3つをメイン事業としています。各事業ごとに営業担当が異なり、それぞれの営業担当は自分の担当事業について深い知識を持っています。
しかし、担当事業以外の技術や強みについて説明するのは難しいのが現実です。
そこで、マーケティング担当が3つの事業すべてについて基礎知識を持つことで、営業に同行した際に担当事業以外の質問があった場合も対応できる体制を作っています。
例えば、射出成形の案件で商談に入ったお客様から「ブロー成形も対応できますか?」という質問があった場合、マーケティング担当が基本的な説明を行い、詳細はブロー担当の営業につなぐといった役割分担ができます。
【必要な知識】
・各事業部の対応可能な技術や製品
・基本的な製造プロセスの理解
・よくある質問への回答
・過去の事例や実績
マーケティング担当者が一定の技術知識を持つことで、初期段階の問い合わせを効率的にさばくことができます。
ただし、すべてのマーケティング担当者が技術に詳しい必要はありません。技術的な詳細は営業や技術部門に引き継げばよく、重要なのは「適切なタイミングで適切な担当者に引き継ぐ」という窓口機能です。
連携を成功させる3つのポイント
部門間連携を成功させるには、以下の3つのポイントが重要です。
①会社全体でマーケティングの重要性を共有
最も重要なのは、「マーケティングは会社全体の取り組みである」という認識を全社で共有することです。
経営者自身が重要性を明確に打ち出し、「マーケティング強化は新規案件の獲得、ひいては売上向上につながる」というメッセージを発信しましょう。各部門の専門知識や顧客との接点が不可欠であることを繰り返し伝え、マーケティング活動と売上の関係を具体的な数字で示すことが有効です。

関東製作所では、全社員が参加する月次の全体会議において、社長が定期的にマーケティングの重要性や実際の効果を説明しています。
こうしたトップからの継続的な発信により、社内での認識が徐々に浸透していきました。
②小さく始めて徐々に拡大
いきなり完璧な体制を作ろうとすると、負担が大きくなり続きません。
まずは月1回30分程度の技術インタビューから始め、1〜2本の記事作成からスタートするのがおすすめです。
成果が出たら営業部門や製造部門にも広げていき、月10本を目指すより月2〜3本を確実に継続する方が、長期的には大きな成果につながります。

関東製作所も、最初は月1回の技術インタビューから始めました。半年間継続して成果が見えてきたところで、営業部門からの情報収集も追加しました。
③各部門と日常的に交流して関係を深める
部門間連携を継続させるうえで、日常的な関係構築は欠かせません。
依頼には期待以上のもので返すことを意識し、営業資料の作成など各部門の日常業務を積極的にサポートすることで、自然と良好な関係が生まれます。
困ったことがあれば気軽に相談してもらえる存在になることが、長期的な連携の土台になります。

関東製作所では、自動機部門から「顧客への説明に使える資料が欲しい」という相談を受けました。
マーケティング担当が定期的に製造現場へ足を運んで自動機を撮影し、顧客にわかりやすい形に動画編集して提供したところ、部門から高い評価をいただきました。
このような実績の積み重ねが、各部門との信頼関係を育てています。
まとめ
製造業のマーケティングは、マーケティング担当者だけで完結するものではありません。営業・技術・製造といった各部門が持つ専門性や顧客との接点を活かしてこそ、成果が生まれます。
各部門がマーケティングに関わることは、決して「本業以外の余計な仕事」ではありません。むしろ、新規案件の増加、商談の質向上、技術的な問い合わせの精度向上など、各部門にとっても直接的なメリットがあります。
マーケティング担当者が窓口となり、各部門の専門性を引き出してコンテンツ化する。小さく始めて、成果を共有しながら徐々に拡大していく。この地道な取り組みの積み重ねが、「選ばれる企業」への道につながります。
次回の第5弾では、「自社サイトを”製造業の営業マン”に育てる方法」をテーマに、Webサイトやオウンドメディアをどのように運用していくか、具体的な方法について解説します。
製造業×マーケティングを実践する関東製作所
株式会社関東製作所は、射出とブローの金型製作、量産成形、自動機の製作などを手掛ける、75年以上の歴史を持つ製造業です。
製造業としては珍しくマーケティングにも力を入れており、Webを活用した戦略を継続することで、現在では年間500件以上の問い合わせをWeb経由で獲得しています。
関東製作所式 製造業マーケティング実践講座では、製造業だからこそ分かる苦悩や、実践してきた工夫を通じて得た知見を皆様にお伝えしていきます。技術力はあるのに伝わらない、営業リソースが足りない、新規顧客開拓の方法が分からない――そんな現場の課題に向き合い続けてきた当社だからこそ語れる、リアルなマーケティングの必要性について解説します。
製造業のマーケティングについて、課題やご不明点がございましたら、30分程度のオンライン相談も承っております。
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