なぜ製造業にマーケティングが必要なのか?【関東製作所式 製造業マーケティング実践講座#1】
マーケティング

「高い技術、良い製品を作れば自然に売れる」──そんな時代は、すでに終わりを告げています。
確かな技術力を持ち、高品質な製品を生み出しているにもかかわらず、思うように受注が伸びない。長年の取引先からの発注が減少し、新規顧客開拓が必要だと感じているものの、何から始めればよいか分からない。こうした悩みを抱える製造業の経営者や営業担当者は、決して少なくありません。
実は、この課題の根本には「技術力は伝わって初めて価値になる」という事実があります。どれほど優れた技術を持っていても、それが適切に伝わらなければ、顧客の選択肢には入らないのです。
本記事では、なぜ今製造業にマーケティングが必要なのか、そしてマーケティングとは何なのかを明確に解説します。
目次
「マーケティング」とは
本記事で扱う「マーケティング」とは、広告宣伝や販促活動だけを指すものではありません。
製造業におけるマーケティングとは、「技術力や製品の価値を、適切な顧客に、適切な形で伝え、信頼関係を構築する経営活動」です。これは単なる販促活動ではなく、市場調査から顧客理解、価値の言語化、情報発信、そして受注後のフォローまでを含む、一連のプロセスを意味します。
重要なのは、マーケティングが「売り込む」ためではなく、「伝える」ための活動であるという点です。自社の技術や製品が、どのような顧客の、どのような課題を解決できるのかを明確にし、それを必要としている人に届けることがマーケティングの役割なのです。
製造業を取り巻く環境変化と「待ちの営業」の限界
製造業の営業スタイルは、長らく「待ちの姿勢」が主流でした。既存顧客からの継続的な発注や、人脈を通じた紹介案件によって売上を維持してきた企業は少なくありません。
しかし、市場環境の変化により、こうした従来型の営業手法だけでは事業の持続的成長が困難になりつつあります。
人脈依存・紹介依存のリスクが顕在化している
製造業における営業活動は、長年にわたって人脈や紹介を軸に展開されてきました。既存顧客からの紹介、業界内のつながりによる受注など、「人と人とのつながり」が商談の起点となるケースが大半です。
かつてはこれが合理的でした。なぜなら、以下のような制約があったからです。

しかし、デジタル化とインフラの発達により状況が大きく変わり、「地理的に近い」「知り合いがいる」という理由だけで取引先を選ぶ必要がなくなりました。顧客は、より広い選択肢の中から、本当に課題を解決してくれる企業を探せるようになりました。
このような環境変化の中で、人脈や紹介だけに頼った営業スタイルには様々なリスクが潜んでいます。特に深刻なのが「取引先への依存度」の問題です。売上の大半を特定の1社・業界または少数の顧客に依存している状態は、一見すると安定的に見えますが、実は経営上の大きなリスク要因となります。
取引先企業の業績悪化や方針転換、担当者の異動や退職、さらには倒産といった外的要因によって、突然発注が止まる可能性があるためです。実際、主要取引先からの受注が途絶えたことで、経営危機に陥った製造業の事例は少なくありません。

例えば、当社は自動車業界のお客様が主要な取引先ですが、新車開発の波によって売上が大きく左右されてしまいます。開発案件が活発な時期は受注が増える一方、開発が落ち着くと発注が減少するというサイクルを経験してきました。
このような特定業界への依存は、自社でコントロールできない外的要因に経営が振り回されるリスクを常に抱えることになります。
さらに、人脈依存型の営業には「属人化」という別の課題もあります。特定の営業担当者の個人的なつながりに頼った受注構造では、その担当者が退職した際に顧客との関係が途切れてしまうリスクがあるのです。
「受注待ち」から「案件をつくる」時代へのシフト
かつての製造業は、大手メーカーからの安定的な発注に支えられ、自ら積極的に営業活動をしなくても仕事が回っていた時代がありました。しかし、グローバル化の進展や市場の成熟化により、この構造は大きく変化しています。
現在では、顧客自身も厳しい競争環境に置かれており、コスト削減や内製化の推進、海外調達へのシフトなど、調達戦略を常に見直しています。その結果、「これまで通り」の発注が継続される保証はどこにもありません。

こうした環境下では、「受注を待つ」という受動的な姿勢から、「案件を自ら創出する」という能動的な姿勢への転換が求められています。案件創出とは、潜在顧客を見つけ出し、その顧客が抱える課題やニーズをヒアリングし、自社の技術や製品がその解決に貢献できることを提案していく一連のプロセスを指します。
BtoB市場においても、顧客の購買行動は大きく変化しています。商談に臨む前に、インターネット上で情報収集を済ませ、候補となる企業を絞り込む行動が一般的になっており、BtoB購買担当者の約60%が、営業担当者と接触する前に既に購入候補を決めているといわれています。

つまり、顧客が情報収集している段階で自社の存在や強みを知ってもらえなければ、商談の機会すら得られない時代になったのです。人脈だけに頼った営業では、こうした「見えない顧客」にアプローチすることができません。
製造業がマーケティングに取り組むべき3つの理由
では、なぜ製造業にマーケティングが必要なのでしょうか。ここでは、製造業特有の課題を踏まえた3つの理由を解説します。
理由①:自社の強みを言語化し、選ばれる理由を明確にするため
製造業の現場では、独自の加工技術や品質管理のノウハウ、短納期対応力など、他社には真似できない強みを持つ企業が数多く存在します。しかし、その技術力がどれほど優れていても、適切に伝わらなければ顧客には評価されません。
製造業のWebサイトには技術や設備情報ばかりが並び、自社の強みが明確に言語化されていません。「技術力がある」「品質が高い」といった抽象的な表現では、競合との差別化にはなりません。顧客が知りたいのは、「この会社に依頼すると、自社にとって具体的にどんなメリットがあるのか」という点です。

マーケティングのプロセスでは、自社の強みを徹底的に分析し、それを顧客の課題解決という文脈で言語化していきます。例えば、「短納期対応が得意」という強みも、「試作品を1週間以内に納品することで、お客様の製品開発サイクルを短縮できます」と伝えれば、より具体的な価値として認識されます。
また、自社がどのような顧客に、どのような価値を提供できるのかを明確にすることで、「精密加工ならA社」「短納期ならB社」といった第一想起を獲得でき、価格競争に巻き込まれにくい経営基盤を築くことができます。
理由②:営業人材に依存しない、持続可能な受注体制の構築のため
製造業の多くは日々の生産業務に人員を割かざるを得ず、専任の営業担当者を置くことが難しい状況にあります。特に中小規模の企業では、経営者自身が営業を兼任しているケースも少なくありません。
こうした状況では、営業活動が属人的になりがちで、特定の営業担当者や経営者の人脈に依存した受注構造が生まれやすくなります。しかし、前述の通り、この体制には大きなリスクが伴います。

マーケティング活動を導入することで、Webサイトやオンラインコンテンツが「24時間働く営業担当」として機能するようになります。潜在顧客が自社の技術や実績を知り、問い合わせをしてくれる仕組みを作ることで、人的リソースに依存しない受注の流れを構築できます。
また、マーケティングによって蓄積された顧客データや問い合わせ履歴は企業の資産として残り、特定の営業担当者が退職しても事業継続性を高めることができます。人材不足が深刻化する中、「人に依存しすぎない営業体制」の構築は重要な課題なのです。
理由③:技術情報の発信で信頼を構築し、指名される企業になるため
マーケティング活動を通じて継続的に技術情報を発信することで、顧客との間に「信頼関係」を構築できます。これは、展示会での一度きりの名刺交換とは異なり、深い関係性の構築を意味します。
例えば、自社の技術コンテンツで「射出成形における成形不良”ヒケ”の改善方法」や「精密加工でよくあるトラブルと対処法」といった実践的な情報を発信し続けることで、潜在顧客は「この会社は技術に詳しい」「困ったときに相談できそう」という認識を持つようになります。
【関東製作所 参考コンテンツ】
>射出成形における成形不良”ヒケ”の改善方法
>射出成形で採用する「ゲート」の種類。最適な樹脂の充填方式をセレクトし、高品質な製品を生み出す
こうした継続的な情報発信により、業界内での認知度が向上します。
「あの会社は○○の技術に詳しい」という評判が広がることで、セミナーや講演の依頼、業界誌からの取材など、さまざまな機会が生まれます。これらはすべて、企業のブランド価値を高め、「指名される企業」になるための資産となります。
実際に関東製作所がマーケティングを始めた当初の話は、下記シリーズ『製造業マーケのリアル』の第一弾「マーケティング部門はいる?いらない?」よりご覧いただけます。
マーケティング未経験だった担当者が語る、マーケティングを始めたきっかけや社内の反応など、立ち上げ時のリアルな内容となっておりますので、是非ご参考ください。
製造業におけるマーケティングとは「伝える経営活動」である
ここまで、製造業にマーケティングが必要な理由を見てきました。では、マーケティングとは具体的に何を指すのでしょうか。製造業におけるマーケティングの本質を理解しておきましょう。
販促活動との違い:マーケティングの本質的な定義
「マーケティング」という言葉を聞くと、広告宣伝や販促キャンペーンをイメージする方も多いかもしれません。しかし、マーケティングの本質は、そうした「売り込み」の活動とは異なります。
日本マーケティング協会の定義によれば、マーケティングとは「顧客や社会と共に価値を創造し、その価値を広く浸透させることによって、ステークホルダーとの関係性を醸成し、より豊かで持続可能な社会を実現するための構想でありプロセス」とされています。
簡単に言えば、マーケティングとは「顧客に価値を届け、選ばれ続けるための仕組みづくり」です。製品やサービスが売れる状態を作り出すための、包括的な経営活動を指します。
製造業においては、マーケティングを「技術力や製品の価値を、適切な顧客に、適切な形で伝え、信頼関係を構築する経営活動」と捉えるとよいでしょう。これは単なる販促活動ではなく、市場調査から顧客理解、価値の言語化、情報発信、そして受注後のフォローまでを含む、一連のプロセスなのです。

重要なのは、マーケティングが「売り込む」ためではなく、「伝える」ための活動であるという点です。自社の技術や製品が、どのような顧客の、どのような課題を解決できるのかを明確にし、それを必要としている人に届けることがマーケティングの役割なのです。
製造業特有の「伝えるべきこと」とは何か
製造業のマーケティングにおいて、何を伝えるべきなのでしょうか。一般的な消費財とは異なり、BtoB製造業では「技術的な信頼性」と「課題解決能力」を伝えることが重要になります。
まず第一に、前述のとおり、自社の技術力や製造能力を、顧客が理解できる言葉で説明することが必要です。単に「高精度な加工が可能」と言うだけでなく、「±0.01mmの精度で複雑形状の加工に対応できるため、試作段階での設計変更にも柔軟に対応できます」といった具体性が求められます。
第二に、実績や事例を通じて、信頼性を示すことが重要です。製造業の購買担当者は、「この会社に任せて大丈夫か」という点を慎重に判断します。過去の納入実績や、類似案件での対応事例を示すことで、安心感を提供できます。
第三に、製造プロセスや品質管理体制を可視化することです。「どのように作られているのか」「どのような品質チェックが行われているのか」を明示することで、製品への信頼が高まります。
第四に、顧客の課題に寄り添う姿勢を示すことです。「こんな加工はできますか?」という問い合わせに対して、単に「できる/できない」と答えるだけでなく、「このような方法なら実現可能です」と提案できる姿勢が、差別化につながります。
これらの情報を、Webサイトやパンフレット、技術資料などを通じて発信していくことが、製造業におけるマーケティングの基本となります。
マーケティングの導入で変わる製造業のこれから
製造業を取り巻く環境が大きく変化する中、マーケティングを導入することで具体的に何が変わるのでしょうか?ここからは、マーケティングによって実現できる製造業の進化について解説します。
“売り込む営業”から“選ばれる営業”への進化
マーケティング活動を通じて、自社のWebサイトやオンラインコンテンツが充実すると、潜在顧客からの問い合わせが自然と増えていきます。これは「インバウンド営業」と呼ばれる仕組みで、顧客の方から「この会社に相談したい」と思って接触してくるため、商談の成約率が高くなる傾向があります。
従来の「アウトバウンド営業」では、営業担当者が自ら見込み客を探し、一件一件アプローチしていく必要がありました。しかし、マーケティングによって問い合わせが入る仕組みを作れば、より確度の高い見込み客に営業リソースを集中できるようになります。

・アウトバウンド営業
企業側から顧客に働きかける営業手法。テレアポ、飛び込み営業、展示会での名刺交換後のフォローなど、営業担当者が能動的に見込み客を開拓する
・インバウンド営業
顧客側から企業に問い合わせが入る営業手法。Webサイト、技術ブログ、SNSなどで情報発信し、興味を持った顧客から自発的にコンタクトが来る仕組みを作る
実際、製造業界の営業・販促担当者を対象にした調査では、58%が「ホームページからの問い合わせは商談に繋がりやすい」と回答しています。これは、問い合わせをしてくる時点で、顧客がある程度自社のことを理解し、興味を持っているためです。
参考:マーケトランク「一番商談に繋がる割合が高いのは「ホームページからの問合せ」と58%が回答。営業販促の状況調査結果」
また、マーケティング活動を通じて蓄積された顧客データは、営業戦略の立案にも活用できます。どのような企業が、どのようなキーワードで自社を見つけ、どのページに興味を持っているのかを分析することで、より効果的な営業アプローチが可能になります。
技術力と発信力の両輪で競争優位性を確立
これからの製造業に求められるのは、「技術力」と「発信力」の両輪です。どれほど優れた技術を持っていても、それが市場に知られていなければ、競合に顧客を奪われてしまいます。逆に、発信力だけがあっても、技術的な裏付けがなければ信頼は得られません。
マーケティングに取り組むことで、自社の技術力を適切に市場に伝え、「この分野ならこの会社」という認知を獲得できるようになります。これがブランディングであり、価格競争に巻き込まれにくい経営基盤を作ることにつながります。
- ブランディング
- 商品や会社を、単なるモノやサービスではなく、特定のイメージや価値として人の頭の中に定着させる活動

また、技術情報を積極的に発信する企業は、「技術に自信がある」「透明性が高い」という印象を与えることができます。技術やノウハウに関するコンテンツ、事例紹介などを通じて、専門性の高い情報を提供することで、業界内での存在感を高めることも可能です。
さらに、マーケティング活動を通じて顧客の声を収集し、それを製品開発や技術改良にフィードバックすることで、より市場ニーズに合った製品づくりができるようになります。これは、技術力そのものを高めることにもつながる好循環を生み出します。
製造業の競争力は、「作る力」だけでなく、「伝える力」によっても決まる時代になったのです。
まとめ
かつての製造業には、「良い製品を作れば売れる」という時代がありました。しかし、市場環境の変化により、技術力だけでは選ばれない時代になっています。営業依存・紹介依存のリスクが顕在化し、「受注待ち」から「案件をつくる」姿勢への転換が求められています。
製造業がマーケティングに取り組むべき理由は、大きく3つあります。
①技術力があっても「伝わらない」ことが最大の損失となっている現実
②営業人材に依存しない持続可能な受注体制の必要性
③自社の強みを言語化し、選ばれる理由を明確にすることの重要性
マーケティングとは、単なる販促活動ではありません。顧客に価値を届け、信頼関係を構築するための「伝える経営活動」です。製造業においては、技術力や製品の価値を、適切な顧客に、適切な形で伝えることがマーケティングの本質となります。
マーケティング導入によって、案件創出力が高まり、営業効率が向上します。そして、技術力と発信力の両輪で競争優位性を確立することができるのです。
製造業こそ、「伝える力」を磨く時代です。技術力を持ちながらも受注に課題を感じている企業は、マーケティングという新たな視点を取り入れることで、大きな変化を生み出すことができるでしょう。
次回の記事では、具体的にどのように「伝え方」を改善していくのか、どのようにマーケティング活動を始めていくのかについて、より実践的な内容をお伝えしています。
下記よりご覧いただけますので、是非ご参考ください。
>「良い製品なのに売れない…」その原因は”伝え方”にあった【関東製作所式 製造業マーケティング実践講座#2】
製造業×マーケティングを実践する関東製作所
株式会社関東製作所は、射出とブローの金型製作、量産成形、自動機の製作などを手掛ける、75年以上の歴史を持つ製造業です。製造業としては珍しくマーケティングにも力を入れており、Webを活用した戦略を継続することで、現在では年間500件以上の問い合わせをWeb経由で獲得しています。
関東製作所式 製造業マーケティング実践講座では、製造業だからこそ分かる苦悩や、実践してきた工夫を通じて得た知見を皆様にお伝えしていきます。技術力はあるのに伝わらない、営業リソースが足りない、新規顧客開拓の方法が分からない――そんな現場の課題に向き合い続けてきた当社だからこそ語れる、リアルなマーケティングの必要性について解説します。
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