製造業マーケティング立ち上げ初期に守るべき5つの鉄則【関東製作所式 製造業マーケティング実践講座#3】
マーケティング

「今日からマーケティング担当をお願いする」――。製造業の現場でそう告げられ、何から手をつければいいか途方に暮れていませんか?
日本の製造業は長らく、優れた技術力とルート営業、そして大規模な展示会を軸に成長してきました。しかし、デジタル化の波は止まらず、従来のやり方だけでは新規顧客との接点が激減しています。
本記事では、製造業で「1人マーケター」や「兼任担当」として立ち上げを任された方が、着実に成果を出すための5つのポイントを解説します。数値目標の立て方、職人気質の社内を味方につける方法、限られたリソースで戦うための「選択と集中」まで、実体験に基づくノウハウを凝縮しました。
目次
なぜ今、製造業にマーケティングが必要なのか?立ち上げ期の課題と現状
製造業においてマーケティングが必要とされている最大の理由は、顧客の「購買行動の変化」にあります。以前のように「展示会で名刺交換をして、御用聞き営業で受注する」というモデルが通用しにくくなっているのが現状です。
従来型の「ルート営業」と「展示会」だけでは勝てない理由
結論から述べると、顧客は営業担当者に会う前にWeb上で情報の6割を収集し、検討を終えているからです。
これまでの製造業は、特定の取引先との深い関係性(ルート営業)や、年に数回の大型展示会が新規リード獲得の主役でした。
- リード
- 見込み顧客のこと。製造業のマーケティングでは、展示会での名刺交換、Webサイトからの問い合わせ、資料ダウンロードなどを通じて獲得した、将来的に取引につながる可能性のある顧客を指す。
しかし、比較検討の土台がネット上に移った現代では、Web上に情報がない企業は「検討の土俵」に上がることすら難しいです。競合他社がWebサイトで事例や技術情報を発信し、顧客の悩みを先回りして解決している中で、情報発信を止めていることは大きな機会損失を意味します。
製造業にマーケティングが必要な理由と、取り巻く環境変化については、第1弾の記事で詳しく解説しています。人脈依存のリスクや、BtoB購買プロセスの変化など、マーケティングの必要性を体系的に理解できますので、ぜひご覧ください。
>なぜ製造業にマーケティングが必要なのか?【関東製作所式 製造業マーケティング実践講座#1】
デジタル未経験の担当者が直面する「3つの大きな壁」
製造業のマーケティング立ち上げ期には、共通して立ちはだかる「3つの壁」が存在します。

これらの壁を一度に壊そうとすると挫折します。まずは「仕組み作り」というマーケティングの本質を理解し、小さな成功を積み重ねることが重要です。
- SEO(Search Engine Optimization)
- 検索エンジン最適化のこと。検索エンジンとは、GoogleやYahoo!など、インターネット上の情報を探すための仕組み。SEOは、この検索エンジンで自社のWebサイトが上位に表示されるようにする施策全般を指す。製造業では、「射出成形 不良対策」など、顧客が実際に検索するキーワードで上位表示されることが、新規顧客獲得の鍵となる。
【課題分析】情報過多の中で自社を選んでもらうための視点
顧客は日々、膨大な情報にさらされています。その中で自社を選んでもらうためには、「何でもできます」という全方位的なアピールを捨てなければなりません。
製造業におけるマーケティングの大きな課題は、自社の「強み」を顧客の「利益(ベネフィット)」に翻訳できていない点にあります。例えば、「±0.01mmの精度」という技術は、顧客にとって「歩留まりが改善し、コストが下がる」という価値になります。この翻訳作業こそが、立ち上げ初期のマーケターが最も注力すべき課題分析です。
自社の技術を顧客のベネフィットに翻訳する具体的な方法については、第2弾の記事で詳しく解説しています。「技術者の言葉」を「顧客のベネフィット」に変換する3ステップなど、実践的なノウハウをご紹介していますので、ぜひご覧ください。
>「良い製品なのに売れない…」その原因は”伝え方”にあった【関東製作所式 製造業マーケティング実践講座#2】
成功への第一歩!立ち上げ初期に設定すべき「正しい数値目標」
マーケティングの最終目的は「売上の創出」ですが、立ち上げ初期に「売上」だけをKPI(重要業績評価指標)に置くのは危険です。
- KPI(Key Performance Indicator)
- 目標達成に向けた進捗を測るための指標のこと。製造業のマーケティングでは、最終目標(売上)に至るまでの中間指標として、問い合わせ数、セッション数、資料ダウンロード数などをKPIに設定します。
いきなり「売上」を目標にしてはいけない理由
立ち上げ初期に売上を唯一の指標にすると、施策の評価を誤り、チームのモチベーションが低下します。
製造業、特にBtoBの受託製造や大型機械の場合、検討期間が半年〜1年以上と長いケースが珍しくありません。
実際、関東製作所で製作している射出成形金型は高単価(数百万円規模)ということもあり、通常でも問い合わせ発生から数か月の検討期間を経て受注するケースも多いです。他にも、展示会で名刺交換をしたお客様から2年後に問い合わせが来て受注に至るといったケースもあります。
マーケティング活動を始めてすぐに売上が立つことは稀であり、初期段階で売上だけを追い求めると「マーケティングは効果がない」という誤った判断を下されるリスクがあります。目標は、現在の立ち位置に合わせてステップアップさせるべきです。
Point🪄
企業認知は一朝一夕で広まりません。初めて車を購入する際、世界的ブランドと無名ブランドでスペックが同じなら、認知のあるブランドを選びませんか?
コストが高いほどより慎重に商品選びをするはずです。
特にBtoBマーケティングでは認知ゼロから始めるケースが多いため、段階的なロードマップを組むことが重要です。
初期に追うべき2つの指標:ハウスリスト数とセッション数
立ち上げ初期に最も重視すべき指標は、以下の2つです。
| 指標 | 意味 | 重要な理由 |
| ハウスリスト数 | 自社が保有する見込み顧客の名刺やメールアドレス | 攻めの営業(メルマガ等)を行うための基盤となるため |
| セッション数 | Webサイトを訪れたユーザーの数 | まずは「知ってもらう」ための認知度がどの程度あるか測るため |
まずは、過去の展示会名刺をデータ化して「ハウスリスト」を整理し、Webサイトへの「流入数」を増やすことに集中しましょう。これらは、努力が数字として現れやすく、改善のPDCAを回しやすい指標です。
目標設定を「宇宙飛行士の夢」にしないためのKPI設計図
いきなり「売上を上げる」という目標は、立ち上げ直後の担当者にとっては「宇宙飛行士になりたい」と言うほど漠然としたものです。これを分解して、現実的なアクションに落とし込む必要があります。

このように段階を踏むことで、今やるべきことが「サイトの記事を書くこと」なのか「過去の名刺をスキャンすること」なのかが明確になります。
孤立を防ぐ!社内を味方につける「経営層との連携」と「社内営業」
マーケティングは1人では完結しません。特に製造業では、現場の技術者や営業部門の協力が不可欠です。
代表者を味方につけるコミュニケーション術
立ち上げ初期のマーケターにとって、最大の味方は「会社の代表者(社長)」であるべきです。
マーケティングは経営戦略そのものであり、売上の仕組みを作る活動です。特に製造業では、生産部門の声が強く、新しい取り組みをするマーケティング担当者は「非生産的」と見られがちです。
経営層と定期的にコミュニケーションをとり、会社のビジョンとマーケティングの方向性を一致させておくことで、いざという時の「後ろ盾」を得ることができます。
現場を動かす「専門用語の翻訳」と「貸し」の作り方
技術者に協力を仰ぐ際、「リードジェネレーションのためにコンテンツが必要です」といった専門用語を使うのは逆効果です。
「お客様が設計段階で困っている事例を、Webで解決してあげたいんです」と、相手の言葉に翻訳して伝えましょう。
また、現場の困りごと(例えば、古い資料のデジタル化や、営業資料のブラッシュアップ)をマーケティングのスキルを使って手伝うことで、社内に「貸し」を作っておくのも一つのテクニックです。「あの人の頼みなら協力しよう」と思われる人間関係の構築が、施策の成功率を左右します。
Point🪄
中小企業の多くの製造業では、高齢化が進んでいます。デジタルに弱い人も多いため、そうしたデジタルの支援をするだけでも、ちょっとした「貸し」を作ることができます。
そして、お願いされた内容の120%で返すぐらいのつもりで対応すると、非常に好印象です。社内だからある程度で返せばいいやはNGです。非生産部門の職種こそ、社内のお悩みに即対応/高品質で応えるのが鉄則です。
成果の「価値」を社内に正しく伝える情報発信のコツ
「展示会で200枚の名刺を取りました」という報告だけでは不十分です。
その200枚の中に、自社がターゲットとしている企業の担当者が何人含まれていたか、その人たちが何に興味を持っていたかを分析して発信してください。
マーケティング部門が「有益な顧客データを持っている」と認識されれば、営業部門から自ずと相談が来るようになります。成果の「数」ではなく、その「質と未来の可能性」を社内にプロモーションしましょう。
限られたリソースを最大化する「選択と集中」の戦略
立ち上げ初期は、やりたいことに対して圧倒的にリソース(時間・予算・人)が足りません。
施策を広げすぎて失敗するパターン:立ち上げ期は「1点突破」
SEO、SNS、YouTube、広告、展示会……すべてを同時に始めるのは、失敗の典型パターンです。
リソースが分散すると、どれも成果が出る前に挫折してしまいます。まずは自社の顧客が最も情報収集に使っているチャネルを1つ特定し、そこに全エネルギーを注ぎましょう。
- チャネル
- 顧客との接点となる媒体や経路のこと。製造業のマーケティングでは、Webサイト、SNS、YouTube、メールマガジン、展示会、オンライン広告などが代表的なチャネルである。
例えば、ニッチな加工技術なら、幅広いSNSよりも「特定のキーワードでのSEO記事」の方が確実にターゲットへ届きます。
Point🪄
製造業の多くはBtoBです。業務中にSNSやYouTubeを見る担当者は少なく、ほとんどがネット検索で情報収集をしています。
だからこそ、まず取り組むべきはSEO対策をした記事コンテンツの制作です。高品質な記事を蓄積することで、メルマガ、SNS、YouTube、展示会など、あらゆるPRで応用できる資産になります。
紹介するサービスや技術をあえて絞ることで得られる「訴求力」
自社の技術をすべて紹介しようとすると、かえって特徴がぼやけます。「何でもできる」は「何も得意ではない」と同じ意味に捉えられかねません。
立ち上げ期は、最も利益率が高い、あるいは最も競合優位性がある「1つの技術・製品」に絞ってマーケティングを展開してください。その1点から「尖った会社」として認知を獲得し、信頼を得てから他のサービスへ横展開するのが、中小製造業の勝ち筋です。
Advice📢
Googleのキーワードプランナーはマーケティング施策検討に非常に有効です。特定のキーワードの検索ボリュームや競合の多さなどが確認できます。検索ボリュームが多く、競合が少ないキーワードは狙い目です。
PDCAサイクルを回すための必要最低限のツール選び
高額なMA(マーケティングオートメーション)ツールをいきなり導入する必要はありません。
- MA(Marketing Automation)
- マーケティング活動を自動化するツールのこと。見込み顧客の行動(Webサイト訪問、資料ダウンロードなど)を記録・分析し、適切なタイミングでメールを自動配信するなどの機能がある。
まずは以下の3つがあれば十分です。
・Google アナリティクス / サーチコンソール:サイト分析用(無料)
・使い慣れたメール配信システム:メルマガ用(低価格なもので可)
・Excel または Google スプレッドシート:顧客リスト管理用
ツールを使いこなすことが目的にならないよう、まずは「手動でPDCAが回る状態」を目指してください。
Point🪄
サイト分析はGoogleアナリティクスがおススメです。Google、Yahoo、Bingなど検索エンジンは多数ございますが、日本国内のシェアでは約80%がGoogleです。Googleが提供する指標をベースに検討するのが適切です。
外部リソースを賢く活用し、クオリティとスピードを両立させる
「自社だけでやる」というこだわりを捨てることが、立ち上げのスピードを加速させます。
自社でやるべきこと・プロに任せるべきことの境界線
「何を言うか(戦略)」は自社で考え、「どう伝えるか(表現)」はプロに任せるのが基本です。

- コーディング
- Webサイトを実際に動作させるためのプログラム(HTML、CSS、JavaScriptなど)を書く作業のこと。Webデザインの見た目を、ブラウザで表示できる形に変換する専門的な技術。製造業のマーケティング担当者が習得するには時間がかかるため、プロに任せるのが効率的。
自社の社員が慣れないデザイン作業に時間を費やすよりも、その時間を「顧客の解像度を高める活動」に使うべきです。
Point🪄
ターゲット設定や強みの抽出やヒアリングの方法は、Web上に様々な手法が公開されています。まずはそれらを参考にしながら、自社に合う方法を見つけていきましょう。
デザインや記事執筆、動画編集は資格が必要なものではないため、経験を積めば自社でもできるようになります。また、近年はAI技術の進化により、無料ツールでもプロ風の制作が可能です。ただし、AIにはハルシネーション(誤った情報を生成すること)のリスクもあるため、生成されたものの良し悪しを判断できる知識が必要です。
コストを抑えて高品質なコンテンツを作る「フリーランス活用術」
大手コンサル会社や制作会社に依頼すると多額の費用がかかりますが、クラウドソーシングなどを通じて専門性の高いフリーランスを活用すれば、コストを数分の一に抑えられます。
製造業の知識があるライターや、BtoBに強いデザイナーをピンポイントで探しましょう。事前にポートフォリオ(実績)を確認し、まずは小さなタスクから発注して相性を確かめるのが成功のコツです。
制作物はすべて「資産」。5年後も価値を生み続けるコンテンツ制作の考え方
Webサイトの記事や動画は、一度作れば24時間365日働き続ける「営業マン」になります。
フロー型(SNSの投稿など、流れて消えるもの)ではなく、ストック型(ブログ記事やホワイトペーパーなど、検索からたどり着けるもの)のコンテンツに投資しましょう。
- ホワイトペーパー
- 特定のテーマについて詳しくまとめた資料のこと。製造業では、技術解説や事例紹介、課題解決の手法などをPDF資料としてまとめ、ダウンロード形式で提供するケースが多い。見込み顧客の情報(メールアドレスなど)を取得する手段としても活用されている。
立ち上げ初期に作った良質なコンテンツは、数年後の自社の財産となり、継続的にリードを運んできてくれます。
Point🪄
画像や映像もとても重要です。PCやスマホの画質は年々向上しており、低画質な素材はそれだけでユーザー離脱の原因になります。
また、一度撮影した画像・映像は、Webサイト、パンフレット、SNS、展示会など様々な場面で流用できます。そのため、できるだけ高画質で撮影・保存しておくことが重要です。
高級な一眼レフを購入するのはハードルが高いですが、スマホのカメラでも設定次第で高画質な撮影が可能です。なるべく画素数の高い画像・映像でデータを残しましょう。
※展示会の壁面グラフィックや看板などで使用する場合は、特に高画質な画像が必要になります。
【チェックリスト付】立ち上げ1ヶ月目から取り組むべきアクションプラン
立ち上げ初期の迷いをなくすための、1ヶ月目のToDoリストです。

まとめ
製造業におけるマーケティングの立ち上げは、決して華やかな作業ばかりではありません。むしろ、地道なデータの整理や、社内調整、泥臭いヒアリングの連続です。
しかし、その土台をしっかり築くことで、技術力が正当に評価され、安定して顧客が舞い込む「売れる仕組み」が完成します。
1.数値目標は「売上」ではなく「リストと流入数」から始める。
2.代表者を味方につけ、社内営業で現場の協力を得る。
3.専門用語を排除し、顧客のベネフィットに翻訳して伝える。
4.リソースを1点に集中させ、中途半端な多角化を避ける。
5.外部リソースを賢く使い、ストック型の資産を蓄積する。
この記事が、あなたのマーケティング活動の第一歩を支える指針となれば幸いです。
まずは明日、眠っている名刺の山を整理することから始めてみませんか?
製造業×マーケティングを実践する関東製作所
株式会社関東製作所は、射出とブローの金型製作、量産成形、自動機の製作などを手掛ける、75年以上の歴史を持つ製造業です。
製造業としては珍しくマーケティングにも力を入れており、Webを活用した戦略を継続することで、現在では年間500件以上の問い合わせをWeb経由で獲得しています。
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次回は、営業・技術・製造が連携するマーケティング体制の作り方について解説します。
ぜひ、その他の関東製作所式 製造業マーケティング実践講座もご覧ください。
>なぜ製造業にマーケティングが必要なのか?【関東製作所式 製造業マーケティング実践講座#1】
>「良い製品なのに売れない…」その原因は”伝え方”にあった【関東製作所式 製造業マーケティング実践講座#2】
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